日本の常識は世界の非常識?海外の賃貸事情とは~東アジア編(上)

pixta_3141004_s

日本の賃貸住宅で住み替えを検討した時、まずインターネットで検索したり不動産会社に行って物件を探し、気に入ったものがあれば内見し、物件が決まれば大家さんと通常2年間の賃貸借契約を交わして、敷金・礼金と不動産会社への仲介手数料を支払い、毎月の家賃を支払う…というのがごく一般的な流れです。
しかし文化の異なる世界各国では、当然住まいに対する考え方や、住み替えの事情も異なっており、日本の常識では考えられないようなしきたりを持つ国も多いです。

経済のグローバル化が進み、国境を越えてのM&Aや世界を股にかけて活動をするベンチャー企業などが多くなってきている現代では、ある日突然勤務先の会社から海外への赴任を要請されるかもしれません。そんなときにそなえて、多摩ひろばでは海外の賃貸事情についても紹介していきたいと思います。

東アジア編は、同じアジア、特に東アジア、東南アジアにフォーカスし、日本のビジネスマンの海外赴任先でも多い、韓国・中国・シンガポール・タイの賃貸事情について調べてみました。今回はその内、韓国・中国についてお伝えします。

韓国の場合-退去時に全額戻ってくる?家賃制度の秘密

pixta_9960190_s

「韓流ドラマ」などを通してその文化に触れる機会が多いお隣の国・韓国。その賃貸住宅の文化は日本とはお金の流れが大きく異なります。

韓国では日本のように毎月家賃を支払うのではなく、入居時に保証金としてまとまった金額を支払い、月額の家賃は無料というのが長く主流となっている「チョンセ」という制度が長く主流となってきました。
支払った保証金は、基本的には退去時に戻ってくるため、家賃が実質無料という事になりますが、どのような仕組みになっているのかというと、銀行の利率が高く投資や資産運用が盛んな韓国では、家主が入居者から預かった「チョンセ」を運用し、退去までに利益を出すのが前提となっており、ゼロ金利の日本に比べると、韓国の銀行の金利はそれなりに高く、たとえば、預かったチョンセの保証金を、年4%の定期預金にすれば、家賃相当の収入が入ってくるというわけです。

我々日本人からすると実質家賃無料ならば入居者にとってはすばらしいことのように思えますが、このチョンセは良い事ばかりではありません。まず預ける金額が非常に高額。チョンセの値段はその不動産購入額の6割程度と言われており、日本人のアパートを借りる感覚でも300万以上、都市部であるソウルでは軽く1000万円以上は必要になってしまうのです。

また、金利が高いうちはお金を預けておくだけで利益を出すことができましたが、最近では韓国の金利は以前と比べてそれほどでもなくなってきており、家主のチョンセの運用の失敗から、解約時にチョンセの払い戻しができないことが多くなってきているとのこと。さらに、運用益の目減り分を補うためにチョンセそのものを値上げする家主が増え、若者などの「住む家がない」という状況が社会問題化してきているそうです。

このようなことに加え、韓国国内の景気も落ち込み気味のため、「チョンセ」制度ではなく「ウォルセ」という日本のような月額家賃制度を利用する大家も増加しています。ウォルセとは、ある程度の保証金(チョンセよりもかなり小額、退去時には全額返金)を最初に、月々の家賃を毎月支払うというシステム。

初期費用が用意できない場合は預ける保証金の額を下げて、家賃を上げるという方法もあるとのこと。万一、家賃を滞納したりすると保証金から差し引かれることになります。ちなみに、ウォルセの相場ですが、数百万円の保証金で、数万円の家賃になります。韓国人の感覚だと、「ウォルセ=無駄な出費」と考え、高額であってもお金を工面し、「チョンセ」を選択する人が多いとのこと。

万一、チョンセや保証金が返金されなかったらどうなるかというと、韓国では「賃借権登記命令」という制度があり、退去する前に「貸借権登記」をしておけば、その家が競売にかけられた際に「優先弁済権」によって、チョンセ、または保証金を返金してもらえます。ここまでしても家主が返金してくれなければ、「チョンセ返還請求訴訟」や民事訴訟を起こすことができ、結果的にほとんどのケースで、チョンセも保証金も返金されますが、いろいろと問題が多いのは事実です。

日本では一部首都圏を除き、賃貸物件の供給が需要を上回っている状況のため、市場原理からゼロゼロ物件などの初期費用が安い物件も増えてきていますが、韓国では日本とは違い、アパートやマンションに入居するにはある程度のお金がないとできないことになります。

まとまったお金を持っていない地方からの学生などはどうするのか?という疑問が湧きますが、そのような学生は下宿(いわゆるホームステイ)や学校の寮に入ることが多いようです。

中国の場合-圧倒的な持ち家文化。賃貸住宅の大家と借主の関係は…

Lion statue and historical architecture in Forbidden City in Beijing, China.

経済成長とともに不動産価格が高騰する中国。それを象徴するかのように高層の集合住宅も多く建設されています。しかし、まず前提として、社会主義国である中国では、「土地は政府の所有物」と定義されています。では、近年騒がれているマンション購入ブームや不動産バブルは何なのでしょうか。それは、単に建物と土地で構成される不動産の「使用権」のみを購入しているだけなのです。現在においても、土地の「所有権」を持っているのは中国政府です。

こういう状況なので、借主保護の考え方が基本である日本とは異なり、中国では圧倒的に貸主の力が強いです。また、様々な決まりや交渉事について契約書に記載の内容に基づく日本とは、中国では「契約」に対する感覚が異なっており、契約書に記載の内容でも、貸主がNOと言えばNO。契約は“口約束”程度と捉えていた方が良さそうです。今よりもっと高い家賃で住みたいという人が他に現れれば、貸主から「一週間以内に出て行って!」といった具合で突然退去を命じられることもよくあることだといいます。

このようなことから中国人は「借りる側の権利?そんなものあるわけない」と言い切ります。中国で賃貸物件を探す時、不動産屋さんは紹介者の役割だけで、あとは貸主と借主の直接交渉です。通常は「付3圧1(フーサンヤーイー)」といって、家賃1か月分の保証金を払い、3か月分の家賃を前払するのが一般的。契約は1年ごとが基本になりますが、家賃が据え置かれることはまずありえず、毎年値上がりしていくのが当たり前。例えば2年間でひと月の家賃が数万円も値上がる事も珍しくありません。終戦直後の日本でも住宅難から貸主側の力が非常に強く、経済成長に伴って家賃が右肩上がりに値上がりするという現在の中国と似たような状況だった時期がありますが、中国でもそういった世相が賃貸事情に反映されているのかもしれません。

また、日本では「持ち家か、賃貸か」という議論がよく起こります。平成25年の「住宅・土地統計調査」によると、日本の持ち家率は61.1%で約半分強といったところ。一方、平成25年の中国社会科学院社会学研究所によると中国の持ち家率は89.6%と、9割近くなっています。その理由は、高度経済成長による不動産価格の上昇から「不動産を持っていれば将来儲かる」という考え方が浸透していることや、中国の多くの女性が「マイホームの所有」を結婚相手の条件としていること。

中国では約1億8000万人の独身男性が結婚相手を求めています。女性は結婚相手の「経済力」をより重視するため、「男性は持ち家があってはじめて結婚できる」と考えている中国の独身女性はなんと7割(70.8%)にものぼるとのこと。「家がなければ結婚できない」というのが中国の男性のセオリーのようですね。

当然持ち家の購入は破格の条件だから、決して誰でも簡単にクリアできるわけではありませんが、20代そこそこの男性でも、結婚のために必死で持ち家を手に入れようとします。持ち家は基本的に結婚して(年齢にして30代になって)から考えようという日本や欧米諸国と中国の状況は大きく異なっています。前述のような家賃の値上がりに対して不安に感じることも、中国での持ち家志向に拍車をかけているのかもしれません。

(下)に続く